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PDOスレッドによる顔の若返り術について

はじめに

ここ数年、Polydioxanone(PDO)製のスレッドによる顔の若返り術は、スレッドリフトの一つとして、日本でも比較的によく施行されている。

しかし、過去に用いられた“糸”によるリフト術(スレッドリフト)が必ずしも満足な結果を残しているとは言い難い現状を見る時、過去の一見同様なスレッドを用いた施術の今日の価と、今回紹介しているPDO糸による施術との違いを知って置くことは大切だと思う。

そこで、知り得る範囲でスレッドリフトも歴史を振り返り、過去の手法の今日の評価を解説し、PDOスレッド法の特色などを書き記す事にした。

1.スレッドリフトの歴史

過去に幾つかのスレッドリフト術が紹介されている。
ここではその概要を以下に紹介する。

Aptosスレッド

糸を用いたリフトは1990年代後半に登場したフェザーリフト(featherlift)に始まるとされる。方法を開発したロシアの医師Dr. Marlen Sulamanidzeは、抗下垂的意味合いで、A-ptos、を代名詞的に用いたので、Aptos糸と記憶されておられる方が多かろう。

この方法は独特の棘が糸の中心から逆方向に生えた糸を下垂した頬の皮下にU字型に埋設してその糸の引っ掛かり力(摩擦)で、ハンモックの様に、下垂した組織を引き上げようとする独特の発想を持っていた。通常Free-Floating方式と呼ばれ、骨の様な硬組織には固定点を持たない方式だ。

用いられた糸はpolypropylene製で、体内で溶けない非吸収糸が用いられている。

おそらく、その名称から抗下垂目的、あるいは予防的観点での使用を開発者が想定していたのではと想像するが、この手法は、手術によるフェイスリフト手術の代替になるのではとの期待が持たれたが、その意味では期待ほどの結果は残せず、さらには非吸収性の糸が用いられていたので、体内に残った糸が異物として悪さをし、糸の露出、触知、感染、などの合併症も散見されるようになり、適応の幅は狭まった。

フェイスリフト手術の代替を考えた“スレッド”

その後、このAptos糸よりもリフト効果が高い方法、ともすれば手術によるリフトと効果を競う目的で開発された針糸デバイスが紹介された。これらはFree-Floating方式ではなく、糸の一方はしを骨あるいは筋膜に固定し、他の一方はしを下垂した組織の下方に置き、何らかの方法で糸の長軸方向への摩擦力で下垂した組織を固定点に向けて静的に引き上げる方式であった。

代表的なデバイスとして、Contour thread, Sihoutte midface suture, Isse endo progressive face lift suture、などが挙げられる。それぞれ、異なった発想で開発された。これらの固定点を持つ方法は、具体的な牽引力を下垂した組織に与えられたので、方法論としては理解が易しかった。

しかし、効果が持続しない、時に埋め込まれた糸に起因すると判断される表情の歪み、あるいは持続する痛み、等の合併症が経験され、これらのデバイスの適応は限られたものとなった。その上、これらの糸の多くは、非吸収性のpolypropylene製であったので、一度合併症が生じれば埋め込まれた糸を摘出する以外に根本的な治療法が探し難しい欠点がある。

これらの経験は、顔面の様に表情筋がある部位での下垂の修正では、手術で行えるような組織を層状に剥離拳上してリフトするのではない糸でのリフトには一定の限界があることを示していると推定されるようになって、今日ではこれらの手法の適応は限られたものと考えられている。

“金の糸”

ここまで述べてきた糸と少し趣の異なった糸に“金の糸”の埋設術と呼称される施術があった。この手法の由来には不明な所も多く、果たして一つのデバイスであったのかも不明で、いかなる原理や考え方であったかも定かではないが(一説には某ロシアの医師の開発)、金を含む何等かの非吸収性素材の糸を、網目状に皮下に埋設する方法であったと想像され、 この糸に含まれる金属の金が若返りの効果を発揮する、と言ったものだと聞き及ぶ。

しかし、この方法に対しては、埋め込まれた糸に含まれた“金”に対するアレルギー反応が原因と考えられる顔面や首部の発赤や、糸の露出などが合併症として関連学会で報告され、かつ、網目状に張り巡らされた“金の糸”を摘出する事は相当な困難を伴う事などが知られ、その適応の幅は狭まった。

2. 非吸収糸によるスレッドリフトの終焉か

ここまでに述べた糸はおおむね非吸収性で、溶けない糸で作られていた。従って、多くは顔面に残り長期で見ると何らかの健康被害の元になってもおかしくない。勿論、幾つかのデバイスでは後に吸収性の糸に変更されたと聞く。またデバイスの一部が吸収性の素材で作られたものもあった事は承知している。が、今にして思えば、なぜに非吸収性の糸が用いられたのかむしろ不思議だが、効果の永続性が期待された事も理由の一つであろう。

そして、時代によっては、吸収性でかつ糸リフトに使用できる糸の素材が無かったのかも知れない。

また、“金の糸”のように何らかの効能を持つ糸を挿入するのであれば、薬品と同じ様な、効能のみならず予想される副作用などがはっきり示される必要がある。

いずれにしても、非吸収性の糸は体内に留まり、異物として残ることを考えれば、抗加齢目的で使用することには慎重であって然るべきだ。

3. PDO製のBarbed suture(棘付糸) の特集号がでた

昨年の九月に、アメリカの主要な美容外科関連の雑誌がPDO製の棘付糸(Barbed suture)の特集号を出した。この特集で取り上げているV-Loc創閉鎖用デバイスは、今日、日本の手術現場で実用されてはいるが、これらの縫合用糸針が美容外科関連の雑誌で特集号が組まれることに驚いて一読してみる事にした。

読んでみると、意外にもこの種の棘付糸の歴史は古く1960年代まで遡ることを知った。その昔、非吸収性の素材が用いられていた時期もあるらしいが、最近は吸収性のpolydioxanone(PDO)で出来た糸が主流となり、棘付糸の長軸方向への摩擦力を利用した創閉鎖用の針付糸デバイスとして発展していると記されている。このPDO製の糸素材は棘(barbed)を作り易い特性を持つとされる。

この特集では、外科手術の基本的手技の一つである結紮(糸結び)から外科医を解放しようとの試みがこの糸の開発の元にあることを教えている。ご存知のように、外科手技の基本の一つに結紮があり、外科医はこの習得にそれぞれ苦労するものだが、今では細かい血管の処置は糸の結紮ではなくクリップに置き換わりつつある。腸管などの吻合でもデバイスを用いた吻合が常用され、頭皮の縫合でも昔よりクリップは多用されている。ただし、皮膚縫合における中縫いなど手間のかかる所は未だに手縫いで、一針ごとに糸の結紮で終わっている事が多い。この手間のかかる結紮操作を、新たに開発した棘付の糸(barbed suture)で解決しようという、いわば革命のような様な話だ。

詳しい事は省くが、もしここに,口を開いた傷があって、その傷口にbarbed suture即ち“棘の生えている糸”を通し、傷口を閉じる方向に動かしたら、傷口は糸の棘が傷口より外側の組織に食い込み、互いの組織を引き合わせ、あたかも縫合したかのごとく傷口が閉じた状態になる、と想像できないだろうか?

これが棘付糸の発想である。

このPDO製棘付糸で、手術創の閉鎖が容易になったと言った成果に留まらず、フェイスリフト手術でもSMASの引き上げなどに応用し良い効果が得られた、との経験が今回のアメリカの美容外科学会誌の特集号に結び付いたと読める。

4. 韓国でPDO製スレッドが若返り施術として登場

何方が考案されたのか不明なるも、韓国から吸収性の合成糸であるPolydioxanone(PDO)製の糸を細い針に装着した糸付針のデバイスが最近登場した。少なくとも数年前のことで、この種のデバイスの歴史はそれよりも数年は遡ると聞く。このデバイスは様々な呼称で販売されていることでも知られている。

興味深い事に、この韓国式針付糸では前記の特集で記載された吸収性のPDO素材の糸を用いている。カナダやアメリカの異種型と推察しても良いかも知れない。

この形式の針は韓国の針灸の治療で広く用いられていたとされるが、それがどのような経過で、韓国の美容医療のデバイスの一つにたどり着いたのか良く判らなかったが、最近、韓国のJ,H,Yoonらによるこの手法を主題とする成書が出版され、その概要や取組の一端を知ることができた。

そして、今日の韓国美容外科で広く用いられていて、人気のある施術の一つである事は確かなようだ。

この糸針の形状は至って簡単で、注射針の中にPDO製の吸収糸を半分に折ったものの片方を差し込み、残りの半分は針の外側に添わすように置いて、その端を軽く針に抑えてあるだけだ。

この針を糸ごと皮下に挿入してから針を引き抜くとV字型にPDO製の糸が針孔に埋没される仕様である。

従って、この方法では、皮下にfree-floating形式でPDO製糸が埋め込まれるので、もしも効果があるとすれば、針刺し行為と、埋め込まれた糸の持つ摩擦で、糸が設置された部位に糸の長軸方向に短縮効果あるいは固定効果をもたらす事が一つの原理であろう。

そして、針刺し行為は侵襲行為であるので、創傷治癒機転が作動し始めると推定できる。

糸は一本だけ埋め込まれる訳ではないので、もしも近接して数本の糸が埋め込まれると、顔面や頸部などのさほど重くない皮膚であれば、ある程度の引き締め効果も期待できると推察される。

Aptos糸が毛返しの付いた糸で、下垂した組織を包み込んでu-字型に引き上げる方法だったとすれば、今回の韓国のデバイスは直線的に皮下に挿入されるので、皮膚をfree floating形式で針の方向に直線的に短縮あるいは固定させたる方法だと表現できよう。

従って、POD製スレッド法は、強固な固定点に向かって引き上げる、リフト手術と直接対比するよりも、抗加齢的に施行される、各種の装置を用いた肌の引き締め術に相通ずる内容の施術と理解すべきだ。

実際の手技では、埋め込まれた糸の長軸方向の摩擦を有効利用すべく、針の向き深さ方向、さらには、挿入時の皮膚への緊張のかけ方などを合理的に行うこと、さらに、挿入された針糸を挿入時に回転させ、刺激をより高める工夫などが追加される事が望まれる。

このデバイスには針の太さや長さ、糸の太さや長さは多用で、頬や顎のライン、或いは頸部、額など様々な部位に施行し得る。さらに、デバイスに装着されている糸も様々あり、中には“コグ”と呼ばれる小さな突起の付いたものなどがある。これらの糸では摩擦力が高まることで引き締め効果が高まることが期待できる。

この効果で、法令線や顎のラインの改善、眉の多少の引き上げで瞳を大きく見せる効果なども抗加齢的範囲で期待できそうだ。

この糸を用いていると、一概に言えるものではないが、施術後肌質が改善する事を経験し、患者にもこの点が好まれるとする意見が多い。このような効果は、加齢で下垂気味のお肌に芯棒がはいる感じで環境の改善が図られ、循環が改善されるのではないかといった仮説も考えられていると聞く。

PDOで出来た糸は外科の手術でも多用され、吸収性で、安全な糸針と言えよう。多少のコラーゲンの産生に寄与するかも知れないが、特別な“若返りの薬”などは入っていないので、この糸による合併症の発生は通常の医療のレベルと同等と言える。

この様な考察から、この手法は、抗加齢的手法が発達してきた今日にあって、同種の施術と同様、一定期間ごとに繰り返して施行される施術の一つと理解すべきだ。そして期待される効果は、手術のリフトで期待される効果とは別の、その度ごとの施術前後の写真には写り難いが、長期で見て抗加齢や若返り効果に寄与する効果だ。

まとめ

今回取り上げた、PDO針付スレッド法では加水分解で溶け、体外に排出されるPDO製の糸の糸が用いられていて極めて安全だ。これに比べ過去にあった幾つかのスレッドリフト法ではポリプロピレン等の非吸収性の溶けない糸を用いていたので使用された糸は体内に異物として残るので、安全性の面で全く異なる方法であったと言える。実際、この手法で用いられる糸は外科手術で広く用いられている素材と同じなので過去のスレッドリフトのような問題は生じ難い。

さらに、この方法で使用される糸は棘ができやすいPDO素材で出来ていて、糸自身に糸の縦軸方向に摩擦力を生む特性を持つ。従ってこのデバイスを用いれば、肌の引き締め効果がある程度期待できる。そして、この施術では、糸の付いた針を皮下に差し込む行為で構成されている。この針刺し行為で、お肌は刺激され、刺激に対する生体反応として創傷治癒機転が惹起されると推定されるので、これらが層状的に作用して、お肌の若返りを促す効果を発揮すると推定できる。その上、挿入された糸は加水分解されるまでの期間皮下に留まり、刺激を微弱ながらも保持し続けることが期待される。

この手法で予想される効果は、他の幾つかの肌の引き締めを目的とした理学的治療器と類似する局所での肌の引き締であろう。

ただし、この方法の報告例は未だ限られていて、今後の研究が期待される。

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